
今回は、こんな声に応えていきます。
経験が浅いと「酸素」が重要なのは分かるけど、いまいち適応や投与方法などに自信を持てなかったりしませんか?難しいことはなるべく抑えて、ポイントだけに絞った学生・新人向けの基礎になります。
当記事で分かること
- 主要な酸素投与方法とは
- 酸素療法の適応などについて
- 観察のポイントなど
<Contents>
酸素療法とは

酸素
酸素(Oxygen)は好気性生物にとっては必要不可欠です。気圧で変化しますが、大気中に約21%含まれています。酸素の供給が不十分となって組織に障害を来すことを低酸素症と言います。酸素無しの代謝を「嫌気性代謝」と言います。
「低酸素症」は動脈血酸素飽和度以外にヘモグロビン値や心拍出量に影響されます。ちなみに「低酸素血症」は動脈血酸素含量が低いことなので、混同しない様にしましょう。つまり酸素療法とは、酸素濃度(FIO2)を21%より高くして組織に十分な酸素を供給することが目的になります。
ヘモグロビンとは
ヘモグロビン(Hb)
ヘモグロビン1分子は酸素4分子と結合できます。酸素飽和度(SaO2)は血中のヘモグロビンに対して酸素の結合率を示します。仮に体に1つだけのヘモグロビンが存在していたとすると、3つ繋がっていれば3/4で0.75→酸素飽和度75%になります。
血中の酸素はヘモグロビンに結合しないと組織に運ばれません。女性は貧血の経験が多いのでは?クラクラするのは、酸素の量や心臓の動きが正常でも、ヘモグロビンが低くて頭に酸素が十分運ばれていないからです。
- 酸素=荷物
- ヘモグロビン=人
- 心拍出量=移動手段
と仮定すると、そこらに荷物(酸素)が余っているのに、人(ヘモグロビン)や移動手段(心拍出量)が不十分だと目的地(組織)まで運べないイメージです。
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SpO2・PaO2・SaO2とは
ポイント
昨今は技術が進歩し、非常に多くの医療機器が存在しますが、基本的なところを取り敢えず抑えれば大丈夫でしょう。
- SpO2:経皮的酸素飽和度です。サチュレーションと呼ばれています。Saturation(=飽和度)、percutaneous(=経皮)を覚えると良いでしょう。指・耳朶などで機械的に測定する方法です。
- SaO2:血液をサンプルに測定する酸素飽和度です。二番目の小文字は液体を表し、大文字は気体を表します。a=動脈血(液体)です。
- PaO2:血液をサンプルに測定する酸素分圧です。1番目のPはpressure(=分圧)を意味します。(=pO2)
大文字・小文字について
決まりでは1文字目大文字、二文字目は1文字目より小さく書き、液体・気体で選択することになっています。臨床では二文字目を小さくする目的で「FiO2」と書いたりしますが、FIO2の「I」Inspiratory(=吸気)を「i」と書くと、液体扱いになってしまいます。FはFraction(=濃度)です。
ヘモグロビン酸素解離曲線について

メジャーな曲線です。酸素療法を学ぶ上で必須な知識ですが、ざっくり覚えれば大丈夫です。簡単に言うと低酸素状態だと、組織に酸素をいつもより多く離して届けます。
60Torr(90%)を下回ると一気に下がって臓器障害や心停止に繋がります。正常値などは勿論、血中の二酸化炭素、pH、体温などで曲線が左右に動くのも頭の隅に入れておきましょう。
ポイント
- 健常者はPaO2:97Torr(=mmHg)・SpO2:98%程度
- 老年者はPaO2:80Torr(=mmHg)・SpO2:95%程度
- 呼吸不全はPaO2:60Torr(=mmHg)・SpO2:90%程度
- 酸素飽和度60Torr(90%)を切ってくると急性期の酸素療法の適応です
*一般的な基準です。現場では臨床像や個性と照らし合わせましょう。
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まとめ
- 大気中酸素濃度(平地):約21%
- 好気性・嫌気性とは:酸素需要で言い方が変わる
- 低酸素症:動脈血酸素飽和度以外にヘモグロビン値や心拍出量が低いこと
- 低酸素血症:動脈血酸素含量が低いこと
- ヘモグロビン1分子で酸素4分子と結合できる
- 健常人:PaO2 97mmHg・SpO2 98%
- 呼吸不全:PaO2 60mmHg・SpO2 90%
低流量システム
実際の投与方法を見ていきましょう。システムも含めて説明します。
体型などに依存しますが、通常成人の1回換気量は理想体重x(8∓2)mlです。重要なので覚えておきましょう。
理想体重は身長(m)x身長(m)xBMI(22)や、ざっくりな場合は身長-110で求められます。状況に応じて使い分けましょう。
低流量システムとは
患者の1回換気量以下の酸素を供給するシステムです。それ以外の補填は周囲の大気から行います。
酸素流量と酸素濃度は意味が違うので気を付けましょう。
- 酸素流量:3L/m(1分で3Lの酸素流量と言う意味)など、酸素流量計で設定します。
- 酸素濃度:FIO2のことで、低流量システムでは一般的に設定不可能です。
設定した酸素流量が同じでも人によって酸素濃度は変化します。
1回換気量が多い人ほど酸素は大気とより混じり、酸素濃度は薄まります。1回換気量が同じでも呼吸が速いと吸入時間が減り、酸素濃度はより薄まります。

低流量システムの酸素濃度は、21(大気の酸素濃度)+酸素流量(L/m)x 3~4で大体の目安が分かります。
例)カヌラ4L/m→21+4 x 3~4 ≒ 33~37% *掛け算が先ですので注意しましょう
鼻カニュラ
人は左右の鼻腔を数時間毎に交互に使って息をしています。人によって左右の使用比率は違うそうです。

メリット
- 安価で違和感が少なめ
- 会話や食事も比較的楽にできる
デメリット
- 口呼吸の患者には効果的に供給できない
- 酸素流量6L/mを越えると酸素濃度の上昇効果が薄まる
- 流量が上がるほど、鼻腔粘膜に刺激を来す
酸素流量(L/m) | 酸素濃度目安(%) |
1 | 24 |
2 | 28 |
3 | 32 |
4 | 36 |
5 | 40 |
6 | 44 |
簡易酸素マスク
マスク内の呼気ガスを洗い出して再呼吸しない目的に5L/m以上で使います。デメリットを考慮すれば5L/m未満でも使用できる。
メリット
- カヌラよりも酸素流量(酸素濃度)を確保できる
- 口呼吸にも対応できる
デメリット
- 低流量時はPaCO2の再吸収を促す
- マスクの臭いで、人によっては気持ち悪くなる
- 食事や会話などに支障を来す
- 流量が多いほど口が乾燥する
酸素流量(L/m) | 酸素濃度目安(%) |
5~6 | 40 |
6~7 | 50 |
7~8 | 60 |
オキシアーム
*画像が無かったのでイメージになります。

マスクやカニュラのデメリットとなる圧迫感、臭気、鼻腔の刺激、口呼吸などに対応し、最近開発された。ディフューザー(画像のマイク部分)を口や鼻から2cm離して固定する。二酸化炭素モニタ付の商品もある。ヘッドセットなので、付けたままの就寝は難しい。
経皮気管内カテーテル
外科処置により喉元から気管内に直接酸素を投与する道を作る。大気との混じりが無くなり、酸素流量を40~50%軽減でき、携帯用酸素ボンベが長持ちする。見た目もカニュラより目立たず、在宅向き。チューブは90日毎に交換する。
まとめ
- 1回換気量=理想体重 x(8∓2)
- 理想体重=身長(m)x身長(m)x22(BMI)or 身長ー110
- 同じ酸素流量で酸素濃度が薄まるのは、1回換気量が多い時や呼吸が速い時など
- 低流量システム酸素濃度簡易式:FIO2=21(大気の酸素濃度) + 酸素流量(L/m)x 3~4
- 通常簡易酸素マスクは、一般的に酸素流量5L/m以上で使います
高流量システム
メリット
患者の1回換気量以上の酸素を供給するシステムです。供給量が多いので、呼吸パターンや1回換気量などに影響されません。
デメリット
高流量なので、基本的に騒音が酷く、顔などに刺激が来たりネブライザーの場合は水滴が付きます。
ある患者の1回換気量を500mlだと仮定した場合、1分間の供給量は500(ml)x60(秒)で最低30L/mが必要になります。
下回ると高流量のメリットが活かせないので、患者本人の1回換気量を想定して設定しましょう。必要無ければ低流量などに変更しましょう。
計算式
総酸素流量=(100-21)/(【設定酸素濃度】-21)x設定酸素流量(L/m)で求められます。単純に設定酸素濃度を21(大気)で引いて、79を割って設定酸素流量を掛けるって覚えておくと表要らずになるのでオススメ。
例)下の表の「青」の設定酸素濃度は24なので、21を引いて3です。79は固定で覚えておいて、割ると大体26程度になります。そこに設定酸素流量2を掛けると52L/mですね!
ベンチュリマスク
吸入酸素濃度を24~50%で安定させて供給できる。設定酸素濃度ごとの推奨酸素流量が決められており、この流量を下回ると設定酸素濃度を維持できない。
ベンチュリ効果とは、簡単に言うと通る道の一部を狭くして主流(酸素)に副流(大気)を引き込む方法です。
色 | 酸素流量(L/m) | 酸素濃度目安(%) | 総流量 |
青 | 2 | 24 | 52 |
黄 | 3 | 28 | 34 |
白 | 4 | 31 | 32 |
緑 | 6 | 35 | 34 |
赤 | 8 | 40 | 33 |
橙 | 12 | 50 | 32 |
ネブライザー付酸素吸入装置
ベンチュリマスクの上位互換ってところです。30L/m以上を確保したい場合は60%が限界ですが、小児や小柄な人で1回換気量が少ない場合は、総流量を確保しつつ濃度を増やせます。
メリット
- ネブライザー機能が付いているので、喀痰が硬かったり、粘膜が乾燥するなどで気道を潤したい人にも適しています
- ベンチュリマスクより簡易に、柔軟に設定できる
デメリット
- マスクや回路内が水滴だらけになるので、誘導したり回路交換をしないと呼吸や感染症などに影響を来す
- 設定酸素濃度以外の部分(目盛以外)でもダイヤル調整を行えるが、感覚での設定は推奨しない
では高流量システムを使用している人のSpO2が90%になりました。医師に「見に行くまでに酸素上げといて!」と言われました。どうしますか?
①酸素流量を上げる ②酸素濃度を上げる ③両方上げる
ポイント
基本的には両方上げます。勿論、総酸素流量が確保できていれば②でも正解です。但し、基本的に適切な量で調整しているはずですので、濃度だけ上げると流量が下がってしまいます。
「酸素を上げたんですけど、全然SpO2が上がりません・・・」と言われて見に行くと、大抵「流量」だけ上げています。流量だけ上げるのは低流量システムだと効果が出ますが、高流量システムだと「総流量」が増えただけで濃度は変わっていないので、十分気を付けましょう。
リザーバーシステム
呼気の酸素と吸気以外の時間でリザーバーバッグ(袋)に貯留した酸素を、次の吸気で吸い込むシステムです。
高濃度(60%以上)なので、合併症として酸素中毒やCO2ナルコーシスに注意し、長期間の使用は避けましょう。CO2ナルコーシスは少ない酸素流量でも生じ得ます。
リザーバーマスク
皮膚と密着させないと大気が多く混じって効果が薄まってしまいます。きちんとリザーバーが膨張と収縮を繰り返しているか確認しましょう。
適切な流量でもバッグ内が空になってしまう場合は、マスクに付属した一方弁を片方又は両方外しましょう。但し酸素濃度は低くなります。
バッグを取り外して簡易酸素マスクに切り替える場合、必ず一方弁を取り外しましょう。
酸素流量(L/m) | 酸素濃度目安(%) |
6 | 60 |
7 | 70 |
8 | 80 |
9 | 90 |
10 | 90~ |
リザーバーカニュラ
高濃度酸素を供給する目的より、酸素の節約を目的に使われることが多いです。普通のカニュラより50~75%程度の酸素流量で同じ酸素濃度に保て、例えば、2L/mの鼻カニュラを0.5L/mのリザーバーカニュラで実現できます。
加湿・皮膚・感染などについて
加湿
米国ガイドラインでは5(4)L/m以下が不要となっていますが、日本では国内の研究結果を踏まえて3L/m以下(ベンチュリ:40%まで)を不要としています。但し、一般論なので個性や臨床像などで対応しましょう。
人工鼻
人工鼻の加湿は、目詰まりを起こして呼吸仕事量の増加や窒息の原因になるので禁忌です。分泌物(痰など)が多い人への使用も控えた方が良いでしょう。分かり易く言うと、濡れた紙で口を塞がれた様な感じですね。
皮膚
総じてMDRPU(医療関連機器圧迫創傷)に注意しましょう。
ポイント
接触する部分、特に耳介や締め付けるところに生じ易いです。意識障害などの方は自力で調整出来ないので、軽く締めるか緩衝材を挟みましょう。
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感染
適宜、濡れた場合や汚れた場合は拭きましょう。酸素回路の交換頻度は施設基準によりますが、一般的には1週間に1度程度になると思います。
尚、ネブライザーなどで水分に晒されている場合は雑菌の繁殖が懸念されるので、通常より交換頻度が多くなります。加湿用のボトルはメーカーで違うと思うので確認しましょう。
まとめ
- 高流量システムの利点は呼吸パターンに影響されない点ですが、欠点として騒音・刺激などが挙げられます
- 1回換気量が500mlの患者の理想供給量は30L/m以上です
- 高流量システムの計算式は総流量=(100-21)/(【設定酸素濃度】-21) x 設定酸素流量(L/m)で求められます
- リザーバーマスクが機能しているかはバッグの収縮・膨張を見ます
- 国内のガイドラインでは加湿は酸素流量4L/m以上で行います
- 人工鼻使用中は加湿すると閉塞する可能性が高くなるので禁忌です
